治療と仕事
2026.04.03
【2026年完全版】不妊治療と仕事の「両立支援」が企業の義務へ。法改正の全容と現場の処方箋
はじめに:沈黙の退職者が生む「1.2兆円の損失」
「実は……」と切り出される退職願。その理由が「不妊治療」だったとしたら、それは個人の問題ではなく、組織の設計ミスかもしれません。
厚生労働省の調査によると、不妊治療を理由に離職するケースは全体で16%(女性では23%)に達します。キャリアの最盛期にある優秀な人材が、通院のために夢を諦め、会社を去っていく。この「静かな離職」が日本経済に与える損失は年間1.2兆円と試算されています。
2026年、この課題はついに「善意」から「企業の義務」へと変わります。
1. 2026年4月施行:改正労働施策総合推進法のインパクト
これまで「企業の自主的な取り組み」に委ねられていた治療と仕事の両立支援。しかし、2026年4月1日より施行される改正労働施策総合推進法によって、状況は一変します。
① 「努力義務」の対象が大幅拡大
今回の法改正により、企業は従業員の「治療と仕事の両立支援」に向けた体制整備が努力義務となります。驚くべきは、その対象疾患の広がりです。
従来: がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎など。
2026年4月〜: 不妊治療のように「反復・継続して治療が必要となるもの」が広く対象に含まれます。
もはや「不妊治療はプライベートなことだから」という言い訳は通用しません。メンタルヘルス不調や難病と同様に、企業が組織として支えるべき「健康経営」の柱となったのです。
② 企業に求められる具体的な「3つの体制」
努力義務化に伴い、会社は以下の体制を整えることが強く推奨されます。
両立支援に向けた計画作成: どのような支援を行うかの方針を明文化する。
相談窓口の明確化: 「誰に相談すればいいか」を全社員に周知する。
環境整備: 休暇制度や柔軟な働き方の導入。
2. なぜ「制度がある」のに両立できないのか? 現場のリアル
厚労省のデータや現場の声から見える、両立を阻む「3つの壁」を深掘りします。
壁(1):通院回数の多さと「直前予約」
不妊治療、特に体外受精などは、卵胞の育ち具合に合わせて「明日来てください」と言われる世界です。
実態: 月に何度も、しかも直前に決まる通院。
心理: 「また急に休むのか」という周囲の視線に耐えられず、有給を使い果たし、精神的に追い詰められてしまいます。
壁(2):極めて高いプライバシー性
不妊治療は、生理周期や性生活に深く関わるため、上司に詳細を話したくないのが本音です。
現状: 相談しやすい雰囲気がない職場では、当事者は「不妊治療中であることを隠したまま」、無理なスケジュール調整を続け、ある日突然、糸が切れたように離職を選びます。
壁(3):男性側の当事者意識の欠如
不妊の原因の約半数は男性にもあります。しかし、男性が「不妊治療のために遅刻・早退します」と言える職場はまだ極めて稀です。2026年は、男性の「メンズヘルス」としての不妊治療理解も必須となります。
3. 中小企業こそ活用すべき「国の支援と助成金」
「うちは人手が足りないから、そんな制度は無理だ」と諦める前に、国のバックアップに目を向けてください。
■ 「両立支援等助成金」の新設
厚生労働省は、不妊治療と仕事の両立に取り組む中小企業を支援するため、「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」を設けています。
受給のポイント:
不妊治療のための「休暇制度」や「時差出勤制度」などを導入すること。
従業員が実際にその制度を利用し、一定期間(例:20時間以上)の休暇取得や勤務調整を行うこと。
相談窓口を設置し、両立支援担当者を選任すること。
これにより、制度導入にかかるコストや、欠員をカバーする体制づくりの負担を軽減することが可能です。
4. 2026年型・両立支援の具体的アクション
法改正を「負担」ではなく「組織改善のチャンス」にするための4ステップです。

5. おわりに:未来を育てるのは、企業の「想像力」
不妊治療との両立支援は、単なる「特定の人への優遇」ではありません。 急な欠員に対応できる仕組みを作ることは、育児、介護、突然の病気、そして「自分の身に何かが起きた時」への備えになります。
2026年4月。努力義務化を機に、社員が「ライフイベントを理由にキャリアを諦めなくていい会社」へとアップデートしませんか? その姿勢こそが、これからの時代、最も優秀な人材を惹きつける「採用ブランド」になるはずです。